YouTube で動画を見ていて、知らない単語が耳に入る。頭の中でなんとなく訳して、そのまま見続ける。翌日にはその単語は消えている。一週間後には、出会ったことすら覚えていない。
その隙間 ― 文脈の中で単語を見た と 本当に覚えている のあいだ ― を埋めるはずのものが単語カードです。問題は、伝統的な作り方(動画を止めて、Anki を開いて、単語を打ち込んで、例文を探して、スクリーンショットを貼って)があまりに視聴の流れを壊すので、ほとんどの人が続けられないことです。この記事は別のやり方の話です:今あなたが見ている動画からそのままデッキを作り、残りの仕事は間隔反復に任せる。
スケジュールのアルゴリズム:FSRS
FSRS ― Free Spaced Repetition Scheduler ― は、カードを いつ もう一度見せるかを決めるための現代的なアルゴリズムです。間隔反復という考え方自体は新しくありません。1880 年代の Hermann Ebbinghaus が示し、その後改良され続けてきたのは、「忘れる直前」に復習したときに記憶が最も強く残るという発見でした。早すぎれば復習は無駄になり、遅すぎれば一からやり直しになります。
古典的なアルゴリズムである SuperMemo の SM-2(Anki の歴史的なデフォルト)は、あなたの自己評価(「もう一度」「難しい」「良い」「簡単」)に応じて次の間隔に固定の倍率をかけます。FSRS は違う方法を取ります:あなた自身 の実際の復習履歴から忘却曲線のモデルを作り、それに合わせて間隔を調整します。実用上の効果は 同じ記憶保持率で復習回数がおよそ 30% 少なくなる ということ。1000 枚を超えるデッキで一日 20 分しか取れないとき、この差は非常に大きい。
Linglass では FSRS は最初から有効になっていて、設定する項目はありません。Anki も FSRS をサポートしています(バージョン 23.10、2023 年 10 月から)が、デッキオプションで手動で有効化し、自分の復習履歴に対してオプティマイザを走らせる必要があります。難しくはないものの、「そのオプションがある」と知っていることが前提です。
手入力が習慣を壊す理由
カードを続けられない一番の理由は、やる気ではなく摩擦です。従来のやり方の流れはこうです:
- YouTube の動画で知らない単語を耳にする。
- 動画を一時停止する。
- 辞書のタブに切り替える。単語を打ち込む。訳を読む。
- Anki を開く。新しいカードを作る。表を入力する。裏を入力する。
- 動画に戻る。スクリーンショットを撮る。トリミングする。保存する。Anki に放り込む。
- その単語が出てきた文を探す。コピーする。貼る。タグを付ける。
- 動画に戻る。さっき何の話だったかを思い出そうとする。
一つの単語につき、少なくとも七回のコンテキスト切り替え。1 話で 10 語、45 分のドラマを「処理」するのに 90 分かかります。ほぼ全員が一週間で挫折します。
学習は本来 視聴中 に起こるはずなのに、ほとんどの労力が記録作業に吸われてしまう。だから道具のほうがアルゴリズムより重要なのです。
Anki がうまく機能するところ、限界が出るところ
正直に言えば、Anki は非常に優れたツールで、設定と手入力に時間を注ぐ覚悟があるなら、ちゃんと動きます。強みは万能の柔軟性 ― どんなジャンルのデッキでも作れる。ただし今回の用途(字幕から文脈ごとカードを作る)では、動画専用に設計されたツールに分があります。
| Anki | Linglass | |
|---|---|---|
| 字幕から単語を取り込む | 不可 ― 手動コピー | 単語をクリック + ポップアップの「保存」 |
| 文脈(文 + 画面 + 音声) | 自分で追加した場合のみ | 自動で取り込まれる |
| 間隔アルゴリズム | デフォルト SM-2;FSRS は任意(手動設定) | FSRS、最初から有効 |
| 料金 | 無料 | 無料プラン / プレミアム $4.19 |
動画からカードへ、二回のクリックで
理想的な流れはこうです:見ていて、知らない単語に出会う、クリックする ― 翻訳のポップアップが開く ― 「保存」を押す。やり取りはそれだけ。動画は止まらないし、タブも切り替えません。
この二回のタップのあいだに、拡張機能が記録作業を全部肩代わりします:
- 字幕からその文を取り出して、カードの文脈として保存します。
- その文の原語音声をキャプチャ ― 復習のときに聞き直せます。
- 画面のスクリーンショットを撮り、視覚的な文脈も残します ― 表情、シーン、動作。
- AI が文全体を踏まえた文脈訳を生成 するので、I went for a run の "run" は the company runs three offices と同じには訳されません。
- FSRS のキューにカードを並べ、あなたの履歴に基づく適切な間隔で再登場させます。
翌朝には、そのカードはスマホでもノート PC でも復習キューに静かに並んでいます ― 文も画面も音もそのまま。動画を見ながら「この瞬間を保存できたら」と思ったことがあるなら、それがこれです。
Linglass のこの流れは YouTube でも デュアル字幕の Netflix でも同じです。動画で語学を始めたばかりなら、姉妹記事 YouTube で英語を学ぶ に動画の選び方が書いてあります。
なぜ間隔が効くのか(短い科学の話)
Ebbinghaus の忘却曲線 ― 心理学の教科書が好んで載せるあのグラフ ― によれば、一度も復習しなければ新しい情報のおよそ 90% が一週間で抜け落ちます。同じ一連の実験で見つかった 間隔効果 がその対抗策です:広がる間隔(1 日、3 日、1 週間、3 週間、2 か月)で復習を重ねれば、記憶保持率はほぼ 90% で安定し続ける。
動画を一本観てある単語を一度聞くのは 接触 であって記憶ではありません。同じ単語を 2 週間で 3 本の動画にまたがって聞くなら記憶に近づきますが、それは偶然頼みで遅い。間隔反復はこれを意図的なスケジュールに圧縮します ― アルゴリズムが、あなたの脳がちょうど忘れかけたタイミングで毎回その単語を呼び戻す。そこが 1 分あたりの学習効率が最大になるポイントです。
実際のセットアップ(5 分)
- Chrome ウェブストア から拡張機能をインストールします。Edge、Brave、Opera、Yandex Browser でも動きます。
- ポップアップを開く。学習言語(動画の中の言語)と 母語(訳を見たい言語)を選ぶ。
- 任意の YouTube 動画か Netflix 作品を開く。学習言語の字幕は自動で表示され、デュアル字幕を有効にしていれば母語の行が下に出ます。
- 出会った最初の 5〜10 個の知らない単語をクリックする。クリックごとに翻訳ポップアップが開くので「保存」を押すとカードがデッキに入ります。
- 見終わったら learn.linglass.app/study を開きます。最初の復習はだいたい 3〜5 分です。
よくある失敗
一度に保存しすぎる。 1 話で 50 語保存すると、翌日には通常の復習に加えて 50 枚の復習キューが乗ります。1 本の動画あたり 5〜10 語が無理のないペース。80% 自信のある単語はカードにしないほうがいい。
復習日を飛ばす。 FSRS は予定どおりに復習することを前提にしています。3 日サボると間隔の推定をやり直すことになり、1 週間飛ばすと、戻ってきたときには気力をへし折るような長いキューが待っています。日曜にまとめて 1 時間より、毎日 5 分のほうが効きます。
もう覚えている単語に SRS を使う。 ある単語が 1 シーズンで 15 回出てきたなら、それはもう覚えています。それをカードにするのは復習時間の無駄。SRS が真価を発揮するのは、1〜2 回しか会っていない、放っておけば消える単語です ― そこを埋めるために作られたものです。
カードだけで学ぼうとする。 SRS は語彙の保持には使えますが、文法でも、スピーキングでも、リスニングの訓練でもありません。スタックの中の一つの道具です。
これがやらないこと
動画からのカードは文法を教えてはくれません。スピーキングの練習にもなりません。聞き取りの弱さも直してくれません。やれることは一つだけ:実際のコンテンツで一度出会った単語を、もう失わないように繋ぎ止めることです。
動画で言語を学ぶフルスタックはこうです ― デュアル字幕で観る(入力) + 知らない単語を保存する(取り込み) + FSRS で復習する(保持) + 講師や言語パートナーとアウトプット練習(能動的想起)。この記事は真ん中の 2 つの話です。残りはあなたの担当です。
よくある質問
動画から単語カードを作る方法は?
字幕から単語を取り込めるブラウザ拡張機能を入れてください。YouTube や Netflix で字幕の単語をクリックすると翻訳ポップアップが開き、「保存」を押すとデッキに追加されます ― カードには、その単語が出てきた文、その画面のスクリーンショット、原語の音声が最初から入っています。タイピングは不要:文脈は動画側が用意してくれて、あなたは「どの単語を覚える価値があるか」を決めるだけです。
FSRS と SM-2 の違いは(Anki に FSRS はある)?
FSRS(Free Spaced Repetition Scheduler)は復習間隔をあなた自身の記憶パターンに合わせて調整します。一方の SM-2 は自己評価に応じて固定の倍率を掛けるだけです。FSRS は同じ記憶保持率を、およそ 30% 少ない復習回数で達成します。Anki は 23.10(2023 年 10 月)から FSRS をサポートしていますが、デッキオプションで手動で有効化する必要があります ― デフォルトは今でも SM-2 です。Linglass では FSRS が最初から有効で、設定は不要です。
YouTube や Netflix の単語を自動で保存できますか?
はい。ただし「自動」は少し言葉を分ける必要があります。拡張機能はあなたの代わりに単語を選んだりはしません ― それをやるとデッキが既知の単語で溢れます。やってくれるのは、保存を「単語をクリック」+「ポップアップで保存を押す」の 2 アクションに短縮することです。文・スクリーンショット・音声・翻訳は拡張機能が埋め、何を保存するかの判断はあなたに残ります。
翻訳を自分で打ち込む必要はありますか?
ありません。字幕の単語をクリックすると、拡張機能は周囲の文を踏まえた文脈訳を AI を使って母語で表示します ― なので "I went for a run" の "run" は "the company runs three offices" の "run" とは違う訳になります。違うと思えば編集できますが、9 割のケースでデフォルトの訳がそのままカードに入ります。
間隔反復では一日何語くらい保存するのがいい?
ほとんどの学習者にとって 1 日 5〜10 語が無理のないペースです。それより少ないと進みが遅く、15〜20 を超えると毎日の復習キューが消化能力より速く伸び、システム全体が「義務」っぽくなってきます。惰性で観た動画から大量に保存するより、本当に楽しめた動画から少なめに保存するほうがいい ― 記憶に残るのは文脈です。
短いまとめ
- 手入力でカードを作るやり方は視聴の流れを壊し、ほぼ全員が 2 週間以内にやめます。まずは摩擦を直してから、デッキの話をする。
- 単語のクリック + 「保存」をひとタップ ― これだけで文・音声・スクリーンショット・翻訳が入る。
- FSRS は SM-2 と同じ記憶保持率を約 30% 少ない復習回数で達成 ― 1000 枚を超えると効いてくる。Anki は任意で有効化可、Linglass は標準で有効。
- 動画 1 本につき 5〜10 個の新しい単語。半分覚えているものはスキップ。
- 日曜の 1 時間より、毎日 5 分。
作りたいのは、「動画が文脈を作る仕事をして、アルゴリズムがスケジュールを作る仕事をする」習慣です。あなたの仕事は、本当に観たいものを観続けることだけ。